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広島高等裁判所岡山支部 昭和51年(ネ)84号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴会社代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴会社代理人の主張)

かりに、本件各社員総会の決議に瑕疵があるとしても、有限会社実成薬局の役員及び社員構成は原判決請求原因(一)項記載のとおりであるが、右のうち被控訴人は実成安佐子、山崎名津枝の母、実成豪は右安佐子の夫、小野善之助、杉山磨はいずれも被控訴人の親族であるところ、右会社は昭和四七年三月ころから経営に行詰りをきたしたため、右会社の店舗賃貸人である訴外株式会社成本商事の代表者河本弘の提案により、被控訴人、実成安佐子、実成豪、山崎名津枝の夫訴外山崎雅史らが協議の結果、被控訴人及び右安佐子らの持分を訴外山形和三郎、同山形八重子に譲渡し、被控訴人及び安佐子らは右会社の経営から手を引くことになり、昭和四七年五月二八日被控訴人が自己の持分一〇〇口のうち四〇口を山形八重子に、六〇口を山形和三郎に、実成安佐子が持分九三口のうち九〇口を、実成豪が全持分一〇口を、いずれも山形和三郎にそれぞれ譲渡し、被控訴人及び実成安佐子はいずれも右会社に対し辞任届を提出し、ここに有限会社実成薬局は事実上実成一族の手から右山形夫婦の手に渡り(右譲渡に際して山形らは協力金名下に一四〇万円、債務の代払名下に三六〇万円、計五〇〇万円を右実成薬局のために支出した)、以後右山形らが商号を有限会社ケンコー薬品と変更のうえ、右会社の経営にあたつており、かかる現状において、自ら右譲渡を承諾した被控訴人が右現状を踏みにじるが如き本訴請求をすることは権利の濫用として許されないものである。

(証拠)(省略)

理由

一、当裁判所も被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものと判断するものであるが、その理由は次のとおり付加するほか、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表二行目の次に左のとおり付加する。

「また、有限会社法四二条に基づき、総社員が決議の目的たる事項について書面をもつて同意を表したことを認めるに足りる資料もない。」

2 同裏二行目の次に左のとおり付加する。

「控訴会社は被控訴人の本訴の提起が権利の濫用である旨主張するので検討するに、なるほど本件各証拠を総合すれば、控訴会社が当審において主張する前記事実関係を認めることができるのであるが、実成薬局の如き小規模の同族有限会社といえども、一企業体として成立している以上、社員総会の決議事項とされているものについては、法の定める社員総会の決議あるいはこれに代わる書面決議をもつて意思決定をなすべきであり、右意思決定に軽微な瑕疵があるというのであれば格別、本件は経営の実権を同族の手から第三者に委ね、いわば実質的には営業譲渡にあたる場合であるにもかかわらず原判決理由一、二項説示のとおり、そもそも社員総会決議またはこれに代わる書面決議なるものが存在しないといういわば有限会社法の明文の規定を全く蹂躙する重大な瑕疵の存する場合であるから、たとえ控訴会社主張の前記事実関係が認められるにしても、被控訴人が右決議の不存在を理由に控訴会社に対し、その確認を求めることは、これを権利の濫用であるとしてたやすく排斥し得ないものというべきである。

よつて、右主張は採用できない。」

二、してみれば、右と結論を同じくする原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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